幾何構成
B4画面に直線、曲線、正円、正方形、正三角形を要素として以下の条件に従って色彩表現しなさい。
条件
①正円、正方形、正三角形は画面の縁に接しても良いが画面からはみ出してはいけない。
②色面は塗りむら、塗り残し、にじみ、かすれ、ぼかしのない平塗り表現であること。
デザイン専攻における色彩基礎力養成課題は、アクリルガッシュを用いた幾何構成です。この課題では、平塗り、溝引き、烏口などのテクニックを習得し、美しく塗るための技術を身につけるだけでなく、色彩の明度を判断する能力も早い段階で習得しておく必要があります。
全ての色彩構成のベース
明度計画
この課題は、まず白黒で明度計画をしてから着彩の作業に入ります。
鉛筆デッサンやモノクロ写真を見ても、人は写っているモノの形や質を認識することができると思います。これは人の目がまず明度差によって、形や質を感じ取っているからです。色彩を使った作品も考え方は同じで、画面構成や描写を支えているのは明度なのです。一方で、「色相」が持っている魅力も色彩表現には欠かせません。「情熱的な赤」や「白銀の世界」などの表現があるように、色相が伝える力は絶大です。
色の「明度」と「色相」のこの2つの特性には役割があるのです。「明度」は画面構成や描写を支える要素であり、「色相」はイメージを伝える要素と捉えることもできます。
これまで行ってきたデッサン基礎トレーニングは、明暗を利用して立体感を表現するのが目的でした。立方体や球体のような基本的な形体に光が当たった時、どんな明暗の秩序が生まれるのか、どんな形の影が落ちるのか。今後複雑な形体のモチーフを描いていくためのベース作りとなる、文章表現で言う「文法」を理解し習得することが目的でした。今回の課題はその色彩版です。画面構成や描写を支える「明度」をしっかり理解し、コントロールすることが目的です。
色彩構成は、まず白黒のコントラストを使って画面構成を組み立てていく「明度計画」を行います。これはすべての色彩構成に共通した進め方になります。
通常は、各色面に彩色していくことが一般的ですが、今回は色彩を明度でしっかりと制御するために、以下のようなプロセスを進めます。
まずは図のように、円の中は明度が低いエリア、円の外側は明度の高いエリアといった具合に、図形によってできた二つの色面に明度のルールを与えます。
他の図形も同じように、明度のルールを与えます。そしてこれらを、
重ねます。暗いエリアが重なれば重なるほど明度が下がっていきます。1枚1枚、透明な白黒のフィルムのようなイメージです。この白黒の絵が色彩構成の元となる「明度計画」になります。絵具を塗る時は、塗ろうとする色面の明度にあった色を選んで着彩していきます。
この課題のポイントは、しっかりと明度計画をすることと、決めた明度の色を選ぶことの2点です。
生徒作品
参考作品1
今回の課題で最も優れた作品ですね。明度を色相に巧みに置き換えています。その結果、透明なフィルターのような効果が生まれています。この色彩のレイヤー効果は、グラフィックデザインの表現方法の一つです。明度によって色彩が制御されることで、この表現が可能となります。正方形の中は明度の低いグループ、三角形の中は明度が高いグループ、そして円の中は明度の低いグループとなっています。さらに、直線によって分断された上下の色面では、上のエリアが明度の低いグループであり、曲線の下のエリアが明度の低いグループに設定されています。明度によって秩序立てられた豊富な色相が見事に表現されていますね。塗りのテクニックをさらに向上させることで、さらなる成長が期待できますね!
参考作品2
この作品も明度を巧みに活用して色相を制御しており、参考になる一枚ですね。曲線の使い方や画面全体の構成バランスにも配慮されています。塗りのテクニックも十分なレベルですが、曲線の精度がもう少し高ければ、より魅力的な作品になったでしょう。また、画面周辺が赤系の色相で囲まれているため、どこか1か所だけでも異なる色相に置き換えると、より鮮やかな印象になったと思います。
参考作品3
こちらの作品も概ね明度によって色相をコントロールできていますね。正方形の中が明度の低いグループに設定されていますが、黄色の色面の明度がもう少し低くいと良かったですね。この黄色い色面と隣り合った背景の色との明度さがほとんどなく、正方形のフィルターが見えなくなってなってしまっています。仕事がとても丁寧でいいですね。赤形の色は塗りムラができやすいですが綺麗に塗れていますし、直線も綺麗で◎。まだ向上できる部分はありますが、現時点で理解力、技術力ともに良好です。
参考作品4
続いて、この作品ですね。概ね理解ができており、基礎トレーニングとしては問題ありません。画面中央部分の明度の高いエリアの明度差がほとんどないため、この部分の明度計画を見直すと良いでしょう。しかしながら、わずかな明度差の中で秩序が保たれているのは素晴らしいですね。明度による秩序立てが最優先の課題ですが、色相の配色は美しい作品です。塗りがより綺麗になると作品の完成度が上がり、美しさが一層引き立つと思います。それによって作品は一段階上のレベルに格上げされるでしょう。
参考作品5
この作品も明度によって色相をしっかりと制御できていますね。平塗りや溝引き、烏口などのテクニックの習得も順調に進んでいるように見えますし、基礎トレーニングも十分に進んでいます。ただ、画面がやや寂しく見えるという点が残念です。正方形の中で繰り返し使われている茶系と青系の色相を、異なる色相に変えてみると良いかもしれません。また、曲線を左側の円まで伸ばしたり、色面の数を増やしてみることで解消できるでしょう。そうすることで作品がより魅力的になるかもしれません。
まとめ
この課題のポイントは2点です。1点目はしっかりと明度計画をすること。2点目は、決めた明度の色を選ぶことです。
うまくいかなかった人は、この2点を見直してみてください。2点目の「色を明度で判断する力」は、ある程度トレーニングが必要です。自主トレーニングで推奨している色見本制作をやってみてください。ちょっとづつ理解が深まっていくと思います。ですので失敗の多くは、1点目の「明度計画」に原因があります。もう一度白黒の状態を確認してみて、再制作をしましょう!
「美大受験デザイン専攻の色彩基礎トレーニング」