影の表現の基本|光と陰影で立体感を生み出す描き方

鉛筆デッサンの基礎:光と陰影

絵からリアリティを感じる時って、何を見出してそう感じるのでしょうか。
細かいところまで丁寧に再現されていたり、写真のように階調が美しく表現されていたり、また、二次元の平面にボコっと立体感が表現されていたりすると、「スゴい!本物みたい!」と思いますよね。
細部まで細かく表現したり写真のように階調を表現するのは、丁寧な観察と丁寧な手仕事に裏付けられた繊細な取り組み姿勢の賜物です。そこに立体感が加わっていたら、それはそれは素晴らしくリアリティのある魅力的な絵になるでしょう!
ただ立体感の表現には少々コツがいります。
二次元の平面の世界に立体を生み出そうとするわけですからそもそも無理がありますよね。平面の世界と立体の世界は次元が違うので同居は不可能です。ではどうすれば良いのでしょうか。

そこで、立体感を生み出す=まるで立体物があるかのように”感じさせる”と考えてみます。
"感じさせる”ためには演出が必要です。
それが今回の「光と陰影と立体感」のお話につながります。
それでは、立体感を表現するための演出の一つ”光”について考えていきましょう。

光と陰影

二次元の白い紙の上に、黒い鉛筆で立体感や空間感を表現する場合、を使うのが最も有効です。
我々の眼は光を捉えてそれを図像として認識している、光学装置です。カメラもレンズで光を捉え図像をフィルムやデジタル情報として記録しているので基本的な構造は同じです。

鉛筆デッサンをデジタル写真に例えるなら、「眼=レンズ」で光を捉え、「頭=コンピュータ」で処理し「手=プリンタ」を使って「紙」に定着させる行為であると言う事ができるでしょう。
立体的な物に、ひとつの光源から光が当たれば、物には日向(明るいエリア)と日陰(暗いエリア)ができます。この日向と日陰のトーンを描き違えることが重要になります。
しかし、デッサンをする環境は、必ずしもそれに適した光源が用意されているとは限りません。
だからと言って、そのベストではない光の状況をそのまま描いても二次元上(紙の上)に三次元空間(立体)を表現することは難しくなってしまいます。
そこで、光と陰影の基本的な性質を理解し自らの「頭=コンピュータ」を使って画像処理:演出をしてあげる必要があるのです。

陰と影

鉛筆デッサンは、白い紙に黒い鉛筆で描いていくので、基本的には暗い「かげ」のエリアにより多くの鉛筆をのせていくことになります。ですから、しっかりと「かげ」の世界が生まれるようにモチーフに光を当てる必要があります。
また、「かげ」にはモチーフの光が当たらないエリアの「陰」とモチーフが床などに映す「影」の2種類の「かげ=陰影」があることを覚えておきましょう。そしてその「かげ」の世界には、周りの物(主に床)に当たった光が反射して照り返す「反射光」があります。
つまり「日向」「影」「陰」「反射光」の4種のトーンを意識するのがコツです。

ベストな光

ここからは、光と影のポイントについて、立方体に当たる光とそれが落とす影を例に、図を参照しながら話を進めていきます。
図の左側はトーンを使って、右側は線を使って立方体を表現しています。右側の図に描かれていてる2つの方向を示す矢印は、光の方向を表しています。一つは"光の角度"(光源を太陽に例えると、午前10時の時、太陽の高さはだいたいこの角度、午後12時は真上といった具合)を表しています。もう一つの矢印は、光が向かってくる"方向"(光源を太陽に例えると、太陽の位置は南側にあるので、北側へ光&影が伸びていくといった具合)を表しています。
それでは、「斜め」「真上」「逆光」の3種類の光がどんな影を生むのか見ていきましょう。

1.斜めの光

最初の図は斜めの光です。
立方体の見えている3つの面への光の当たり方(光量)が全て異なるので、3つの面を異なるトーンで表現することができます。それぞれの面の方向の違いを明快に伝えることができるので、立体感を表現しやすい設定になっています。
つまり、立体感がとても伝わりやすいということです。
さらに、立方体が床に落とす「影」によって、床の手前と奥の空間感も表現しやすい状態になります。

2.真上からの光

住宅用語だと”天窓”の意味があるそうですが、真上からの光をトップライトと言ったりします。
上を向いている水平の面は光がしっかりと当たっているので、他の面とのコントラストをしっかりとつけられそうですが、2つの垂直面にトーンの差が生まれていません。
これでは、側面の方向の違いが伝わりづらいですね。
また、立方体が床に落とす「影」がないので、空間感が非常に表現しづらくなってしまいます。

3.逆光

光源が対象物の向こう側にある状態です。
真上からの光と同じ様に、2つの垂直面にトーンの差が生まれていないので、こちらも面の方向の違いを表現するのが難しいですね。
「影」は手前に向かって伸びてくるので、立方体の裏側の空間も示唆しにくい状態になっています。
光の印象や空間の雰囲気は表現しやすいかもしれませんが、立体感を表現するには難易度は高めです。

まとめ

立体感を表現するには、ただなんとなくモチーフを描き写すだけではなく、”光”の演出・設定が必要です。そして、立体感と空間感を一番明快に伝えられる設定は1.の斜めの光です。光はモチーフの上方手前側から少し斜めに当たっている状態が、物の立体感とその周辺の空間感を一番表現しやすい「ベストな光」であると考えて良いでしょう。
美大入試の試験会場や普段描いているアトリエの環境で、立体感を表現しやすい光の状況になっていることはまずあり得ません。写真のような美しい諧調や細かい細部まで表現するには、目の前にあるモチーフをよくよく観察しなければなりません。
一方で、立体感を表現するには光の演出が必要です。よく観察しろと言っておきながら、”演出”しろと言われる。一見矛盾して聞こえる(あるいはそもそも矛盾している)両者のバランスをとりながら、リアルに見えるように描き進めることがデッサン力の一つかもしれません。


ーオマケー
今回のこの「ベストな光」は、物の形態とその周辺の空間を見る人にわかりやすく伝えるデッサンをする上でのベストです。ただし全てのデッサンにおいてのベストではないということを、ちょっと頭の片隅に入れておいてくださいね。
たとえば逆光の設定は、今回の主題である物の立体感を表現するにはやや難しい設定ですが、朝日や夕日など光を印象的なイメージで伝えるのにはとても有効です。

何を表現したいのか、何を一番伝えたいかによって、「ベストな光」というのは変わってきます。
立体感を第一に表現したい場合は、1の斜めの光がおすすめです。
光の印象や雰囲気を見せたい場合は、3の逆光が効果的です。
どんなモチーフを描こうか、モチーフ選びは絵を描く上でとても大切ですが、光をどう設定するか?もとても重要な事柄です。
ぜひ意識して取り組んでみてくださいね。

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