手の鉛筆デッサン:制作プロセス
今回の鉛筆デッサンは、美大受験でよく出題される「手」の構成デッサンのプロセスです。
多摩美術大学生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻の合格者の作品を参考に解説します。
それでは見ていきましょう!
〜描き出し〜
まずは大きくあたりを当たっている段階です。この時大事なことは、画面のどこに何がどこまで来るか確認することです。画面いっぱいに大きく、小さくならないように心がけながら描き進めます。1回で的確な構図や形を捉えられることは経験者でもまずないので、描き直しながら描き進めるつもりでいてください。ですので、この段階で使う鉛筆はBや2Bぐらいの柔らかめの鉛筆が適当です。間違っていてもすぐ消せるので、画用紙を傷めずにすみます。
描こうとする大体のものが画面の中に登場しました。手が小さくなってしまったり、構図が悪くなってしまったら、この段階で修正しておきたいですね。
楕円や「手」の形の捉え方を見ると、経験を積んできた人だとわかります。クロッキーを繰り返し繰り返し行って手の形を素早く捉えられるようになったり、今回のお鍋のような工業製品を捉えるための形のルールを見つける力だったり、ここまでに多くの時間と積極的な取り組みがあってこそです。
明暗の階調を意識して、暗部を優先して加筆しています。鉛筆デッサンは、画面の中にモチーフを通して立体感や空間感を表現する事が目的です。立体感の表現には、明るさ・暗さを利用して描くことが効果的です。真っ白な紙に黒い描画材(鉛筆)を使って表現するので、必然的に”暗部”を優先して描き進めていくことになります。
”明暗を意識して、暗部を優先しながら加筆する”ことが鉛筆デッサンのスタンダードな進め方です。
絵が進んできました。優先していた暗部から明るい部分にも手が入り始めて、形がしっかりしてきましたね。立体感を表現するために明暗を手掛かりに書き進めていくと同時に、スプーンや鍋の金属の「質感」の表現も現れてきました。金属などの質感の表現のポイントは白黒のコントラストです。金属には一番明るいハイライトと強い黒のトーンが現れるのでしっかりと観察しながら加筆すると効果的です。黒いからといって5Bや6Bのようなあまり柔らかすぎる鉛筆を使うとボソボソしてしまうのでやや硬めの鉛筆がオススメです。
この辺りから最終的な作品の良し悪しに関わる段階になります。ここまでは構図や明暗を基調にした描き進め方など、大きな問題なく進んできました。ここからはより一層の「観察」が必要になります。描き進め方などある程度のテクニックはありますが、観察無くして本物そっくりな絵が描けることはありません。この観察の深度が深ければ深いほど、最終的に良い作品になります。
ポイントは3つ。目指すは本物そっくり!ですので、そのためには細かく丁寧に観察するのが必須条件です。細かく丁寧に観察できる人は、すぐに上手くなります!もう一つは、そうやって丁寧に観察して加筆した自分の絵と、本物を「見くらべる。」こと。間違い探しをするぐらいの気持ちでよく見比べてください。3つ目は、丁寧に観察し見くらべ「直す」です。よくよく比較してみると形の狂いがたくさん見つかります。それを直しながら「本物」に近づけていきます。根気と集中力が必要です。でもここからが絵を描く楽しさの醍醐味の一つなんです。
〜完成〜
形、明暗、質感に留意しながら丁寧な観察、比較、修正を繰り返しながらの加筆です。ばたついている鉛筆の調子を整えながら、高い完成度を目指します。もう一度金属に強い黒を入れたり、スプーンを持つ手が鍋に落とす影の強さを調整したりしながら進め・・・・・
完成です。
鍋やスプーンを持つ手の自然なフォルムにはやや硬さが残りましたが、5時間の制作時間のデッサンとしては強く言い切りの良い作品に仕上がりました。