デザイン工芸コース「アトリエトーク2019」Vol.1

毎年、デザイン工芸私大コース、芸大コースのOBOGに集まっていただいて開催するトークイベント「アトリエトーク」。憧れの美術大学の生活は一体どんな感じ?晴れて美大生になった先輩たちの受験期はどうだったの?楽しいことや辛かったことは?
同じ道の少し先をいく先輩方に、いろんなお話を語っていただきました!”ぶっちゃけトーク”をできるだけそのままお届けしたいので、全3回に分けてお送りします。今回はそのVol.1です。

2019アトリエトークのトップバッターは多摩美術大学生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻を推薦入試で合格された、I.N.さんです!

身の回りにあるもの多くが
プロダクトデザインによって生まれたもの

こんにちは!多摩美プロダクトデザイン専攻のI.N.です。よろしくお願いします!
では早速プロダクトデザイン専攻について軽く説明しますね。
家電とか文具、化粧品のパッケージにおもちゃとか服とか、私たちの身の回りにあるもの多くがプロダクトデザインによって生まれたもので、それらを専門的に学ぶのが私たちプロダクトデザイン専攻です。また、車や家電みたいなそういったザ・プロダクトっていう物を思い浮かべたりすると思うんですけど、そういったものだけでなく、例えば課題でアイドルプロデュースしてる子がいたり、企画とかそういう見えないもののデザインとかも勉強していたりします。

ハマ美OG・OBによるアトリエトークの画像

では1年生の授業についてざっくりお話ししたいと思います。
まず最初にマインドセットっていう課題があります。これはグループワークで、最終的にみんなで考えたプロダクトやサービスをプレゼンテーションするっていう課題です。大学に入って1週間ぐらいなのにいきなりグループを組まされて、学校の外で軽く合宿みたいなことをして課題を進めていくんです。ここで友達ができます(笑)。

次は1年次に行う基礎課題の一つでスカーフを作る課題です。これは自分をテーマに自由に作るもので、大体の子がイラストレーターとかフォトショップとかデザイン系のアプリケーションを使って作って、最終的に実際に出力してスカーフを作ります。
他にはスプーンを作るという課題もあります。デザインスケッチを描いて、クレイっていう素材を手で削りながら造形して、最終的に銀みたいなものを流して形を作った後、ひたすら磨いて磨いて、手を動かし続けて立体造形する課題です。この時一緒に作品を撮影する授業があって、本格的に初めてちゃんとしたスタジオを作って撮影しました。
1年生の最後にあるのがクリスマスパーティーを企画するっていう課題で、クラス全員で一つのイベントを作り上げるみたいな課題です。テーマから自分たちで決めて、イベントの内容を企画したり、衣装を作ったり、ツリーやオブジェを作ったりとか、あとは料理を作ったり。私は衣装班だったので司会の人たちの衣装を作りました。
ここまでが1年生の課題です。

ダクトはとにかく忙しい。でも、すごい充実しています!

ダクトの学生は忙しいって聞いたことがあると思うんですけど、本当に忙しいです。私は1年生の課題ですでに3徹しました。3日連続徹夜!一つ課題が出てまたすぐ新たな課題が出てって感じで、とにかく忙しいです。でも、すごい充実してます!

授業アトリエ風景

ダクトの良いところとして、一人ひとつ、教室に机があります。自由に制作に使える机が一人一人あるというのはとてもアピールポイントです。
1年生の時は、一つの教室に1学年70人くらいが集まって課題をしています。2年生からはそれぞれ将来行きたい専攻にあわせた3つのスタジオに分かれて製作しています。
またダクトはすごい設備が整っています。例えばマックルームっていう、パソコンを使える教室があったりとか、今年できた謎のスタバっぽいおしゃれなスペースなんかがあったり、ここで課題やっていいよ~みたいな部屋があったりとか、あと、昨年にできた、これもちょっとおしゃれ風なミーティングスペースがありまして、ダクト生はこういうところをイベントの企画や課題制作に使ったりとかしています。
3Dプリンターとかそういう機材も揃っていて、2年生ぐらいからは実際に3Dプリンターを使ってよりクオリティの高い作品を作ることができます。そういう設備を使えるのはとても良いところだと思います。

続いては、東京芸術大学デザイン科を現役で合格されたT.H.さんです。

東京芸大は上野にあって、美術館や博物館も近くにたくさんあるので立地はすごいいいです。多摩美武蔵美との大きな違いは、プロダクトデザインとかグラフィックデザインとか細かく別れてなくて、デザイン科っていう大きな枠組みだけがあるところかなと思います。
その中にプロダクトやグラフィックなど様々な分野の研究室が10あって、それぞれの研究室の教授が出す課題を、1、2ヶ月とか長いスパンで答えていくっていうのが4年間通してあります。また、並行してタイポグラフィーとか、フリーハンドスケッチとか、アニメーションとか、自分がどの専攻に行くかとか関係なく、いろんなことを経験できるカリキュラムになっています。
あとは3年生の時に、2週間ぐらい京都奈良に行けるんですよ。古美術研究旅行っていうもので、京都奈良に行くだけで10単位もらえるんです。芸大生だからということで、普段見せてもらえないような国宝とかいろんなものを見せてもらえます。そういうのも芸大ならではというか、貴重な体験をさせてもらえてるなって思います。


デザイン科は、1つの大きい部屋の中でみんながいろんなことをやっています。無理やり詰め込まれてるような感じで、本当にアトリエの中はぐちゃぐちゃです。でも、自分のやってることと全然違うことをやってる人がすぐ隣にいるのが面白い環境だなと思います。
あとは、芸大は文化祭が結構楽しいです。すごくたくさんの作品が観ることができます。学部の一年生では芸大名物のお揃いの法被と神輿を作って、その神輿を担いで練り歩くてっていう行事があって、すごく迫力があります。神輿の出来をいろんな科同士で争うんですね。そういうのも観れるのでおすすめです。

ほんと何をやってもいいんです

課題制作では、ほんと何をやってもいいんです。1年生の時に、生き物をテーマに立体作品を作れっていう課題があって、素材や作り方も自由なので、みんな各々好きなように作品を作っていました。私は蜘蛛の巣をテーマに、割れた鏡でできた立方体を積み上げた作品を作りました。鏡の割れた表面の跡が蜘蛛の巣に見えるように繋げた作品で、蜘蛛の巣の、存在感はあまりないけど近づくと結構迫力あったりとか、馴染んでるけど実はすごい存在感があるとか、そういうのを表現したいなと思って、1年生の真冬に外の茂みの中で延々と鏡を割って組み立ててっていうことをひたすらやってて、デザイン科に入って私何やってんだろうって思った作品です(笑)
でもとても印象に残っている課題です。

普通に描写をする課題もあって、ヌードクロッキーだったりとか、石膏で人の頭部を作ったりとか、鳥獣戯画の模写とか、デザイン科なのか??ってことをたくさんやりました。
あと、2年生の時に作った作品で、この課題は、チャーミングに異を唱えるっていう課題だったんですけど、本当にそれだけ言われてあとは自由なんですね。だからみんな自由に答えていくんです。私は「やばい」って言葉に異を唱えるというか、「やばい」の意味合いの曖昧さを表した作品を作りました。文学作品の形容詞の部分を「やばい」に置き換えて、その「やばい」の部分に本当はどんな言葉が入るでしょうか、というアンケートをとりました。そしたら本当色々な単語が出てくるんですよ。
それを透明なフィルムに印刷して、重ねて展示して、実際に正面から見るとそのやばいっていう言葉が曖昧に見えるっていう作品を作りました。これ結構気に入ってます。人がそれぞれ違う考えを持ってるっていうのが見えてくる作品が私は結構好きです。

3年生の時には、大手広告代理店の有志のワークショップがありました。広告代理店とかゲーム会社とか、大企業の方々が芸大に来て授業をしてくれる機会がたくさんあるんですね。その時のワークショップの作品テーマが「時間」だったんですけど、私はカレンダーを作りました。曜日とか関係なく、日にちがバーって並んでて、その日付を一つ一つ囲むようにピンが打ってあるんです。そこにゴムをかけて各々自分の好きな区分けで日にちを区切っていけるカレンダーのようなものを作りました。人によって見えてくる形が違う面白さを作品にしたんですけど、本当に人によって全然違ってるんですよ。ある人は五種類ぐらいバイトしてて、バイトごとにゴムの色を変えてその5種類の色がブワーって見えたり、またある人は自分の展示期間とかちょっと大事な日だけ印をつけたりとか、そういう風に人がそれぞれ捉えている時間の感覚の違いが見えてくるのが面白いかなと思って作りました。

なんでもできる芸大だからこそ生まれたもの

4年生最後の課題は卒業制作です。私は、日常生活の中で身の回りにある紙を漉(す)いて、例えば習字の紙とかカレンダーとかを砕いて、それを使って新たに自分で漉(す)き直した紙に、紙自体のエピソードをイラストや文字で表現する作品をつくりました。習字の紙に筆のイラストを描いたり、漫画の紙に読んでいたときに飲んでいたジュースのイラストを描いたりしました。イラストとは別に自分で作り直した紙で作った本があって、その紙にまつわる記憶が文章で書いてあるんですけど、実際にその紙を見て触れることでその紙がどんな紙だったのかを想像して欲しいと思って作りました。今思うと、この作品もなんでもできる芸大だからこそ生まれたものだと思います。本当に芸大のデザイン科はやりたいことをなんでもできてしまうところです。
デザインじゃなくても、例えば変なパフォーマンスとかしてても、ちゃんと自分が考えてやってることなら受け入れてもらえる環境があって、逆に作品をどういう風に作っていくかっていう難しさでもあるので私自身も悩んだりもしましたが、なんでもできるっていうのはすごく面白いし、周りも色んななことをやっているのですごく刺激になる環境です。