水彩は水彩紙に描こう!
水彩は水彩紙に描こう!…そりゃそうですよ、という方はこの先は飛ばしていただいて大丈夫です^^
水彩画は水彩紙に描きます。画用紙じゃダメなの?と思われる方もいらっしゃると思います。ダメ、ということもないのですが、水彩のテクニックをいろいろ表現するには水彩紙がおすすめです。
水彩紙には、水を使うことを前提とした滲みをコントロールする「サイジング」という加工が施されています。絵の具を使っても水をあまり使わないという時は画用紙でも良いですが、これから水彩画を学ぶという方は、タフで水彩画の表現をしっかり支えてくれる水彩紙でスタートするのがお勧めです。
※この場合の水彩画とは、透明水彩絵の具を使用した場合を前提としてお話しします。アクリル絵の具などはまた少し事情が異なりますので、いずれそのことにも触れたいとと思います。
さて、筆選びの記事のところで「筆は種類が多く選ぶのが難しい」とお伝えしましたが、同じく水彩紙も種類が大変豊富で、購入を悩む方も多いと思います。ここでは「初心者の方のための」紙を選ぶ際のいくつかの基準についてお話ししていきましょう。
紙選びのポイント①ー原材料
紙は主に「コットンパルプ(綿)」と「木材パルプ」を原料として作られています。一般的にはコットンパルプの方が高価です。使いやすさと価格のバランスをとって、コットンとパルプを混合した商品もあります。この、原材料が何か、というところが紙の性質を大きく決定づけていきますので、購入する時にはぜひチェックしてみてください。
水をたっぷり使用した、水彩画らしい表現をしたいならコットン100%
コットンパルプで作られた紙は保水性に優れ、ゆっくり乾くことから、様々な水彩の技法を表現するのに適しています。特に水彩画らしい「ウェットインウェット(乾いていない絵の具にさらに別の色の絵の具をのせ、滲ませる表現」では、その違いが顕著です。水をたっぷりと使った、水彩画らしい表現をしたい方はコットン100%の紙がお勧めです。また、丈夫なので、リフティング(拭き取りによる水彩技法)や重ね塗り、修正などを繰り返してもへこたれにくいのも特徴です。木材パルプで作られた紙に比べ、高価というところが難点でしょうか。
スケッチブックには下記の様な紙の特徴を比較したグラフがついていることがあります。(下記のグラフはホルベインのスケッチブックについていたもの)コットン100%とコットン+パルプを比較すると、コットン100%の方が水彩紙として優れていることがわかります。
購入する際、画材店で販売されているコットン100%の紙であればどれを選んでも良いと思います。中でも人気の高いものを挙げるとすれば、とにかく満足度の高い「アルシュ(仏製)(価格も高い^^)」、価格と質のバランスが良い「ウォーターフォード(英製)」、あたりでしょうか。「ファブリアーノ アルティスティコ(伊製)」 もおすすめです。コットン100%を使ってみたいけれど、価格は抑えたい、という方には国産の「ランプライト(ミューズ社)」もお勧めです。
※紙の名称に販売元へのリンクを貼っておきましたので、さらに詳細をご覧になりたい時はそちらからどうぞ
スケッチや淡彩なら木材パルプもあり
木材パルプは主に針葉樹などの繊維から作られており、ノートなどの紙製品にも使われています。デッサンなどで使う画用紙も木材パルプになります。コットンに比べ安価ですが、保水性が低く乾きが早いため、にじみ表現など、水彩画らしい水をたっぷりと使用した表現は、やや苦手です。また、絵の具の定着があまり良くないので、重ね塗りなどすると、下の絵の具が溶けてしまうことがあります。水を少なめに使う、淡彩やスケッチなど、比較的短時間で描く表現にお勧めです。
コットン+パルプはビギナーにお勧め!
コットン100%の紙はビギナーの方にもお勧めです。丈夫なので時間をかけてじっくり描いたり、失敗したら絵の具を洗い出し修正することもできます。が、そうは言っても初心者の方にとってコットン100%の紙はちょっと購入するのに勇気のいる価格です^^; そこで候補となってくるのが、コットンとパルプを混合したものです。ミューズ社のワトソンなどは定評があり、愛好者も多いのでお勧めです。
紙選びのポイント②ーキメの違い
水彩紙の表面には凸凹とした「肌理(目ともいう)」があります。およそ「細目」「中目」「荒目」(メーカーにより、表記が異なる場合があります)の三段階に分かれており、スケッチブックなどの説明書きに表記されています。「荒目」の紙だと筆のタッチがざらっとした感じになり、にじみなども面白い効果が出ます。逆に「細目」の紙は筆のタッチが素直に出て、またざらつきもないのでボタニカルアート(植物画)のような、細密な表現に向いています。また、紙の種類によっては肌理の種類が一つしかないものも多くあります。
初心者の方はまずはクセのない「中目」から始めると良いでしょう。ざらつきが適度で、にじみ表現も楽しめます。
ナチュラルかホワイトか
水彩紙の中には「ナチュラル」と「ホワイト」という二つの色調の紙をラインナップしているものがあります。ナチュラルはやや黄身がかっていたり、ちょっと赤いというか薄いベージュの様な色調のものもあります。一方、ホワイトはかなり白色度の高いものから、柔らかいやや落ち着いた感じの色調のものもあります。両者を比べると、ホワイトは「発色が良く、鮮やか」、ナチュラルは「色調がまとまりやすく、おだやか」になります。ここは好みで決めていただいても良いのですが、初心者の方は、まだ混色に慣れていないのでナチュラルを選んでいただくと、色にまとまりを持たせやすい傾向にあります。
スケッチブックかシートか? それぞれの形状の利点を押さえよう
紙はスケッチブックや1枚ずつ購入できる「シート」などさまざまな形状で売られています。それぞれの目的があって商品化されていますので、特徴を理解して、目的に合った形状のものを購入することで、制作がスムーズになります。
じっくり描きたい、色々な紙を試したいなら「シート」
1枚単位で購入できるシートはいろんな紙を試したい方や、じっくりと大きな作品を描く方にお勧めです。シートを使用する場合は「水張り」という紙をパネルに張り込む作業が必要です。この辺りがちょっとハードルに感じる方もいらっしゃいますが、パネル張りしていない紙はたわみが出て、描きにくいだけでなく作品の仕上がりも綺麗ではありません。シートで描く方は、水張りすることをお勧めします。(授業内では「美しく張れる水張り」をしっかり指導させていただきます^^)1枚ずつ購入するためには画材店で紙見本を参照し、1枚ずつ注文しなければならないので、初心者の方には難しいと感じるかもしれません。
手軽に水彩を練習したいなら「ブロック」
ブロックは一見、スケッチブックに近い形状ですが、四辺が強力なノリで固められているのが特徴です。よくあるスケッチブックの様なコイルなどがありません。強力なノリで四辺が固められているおかげで、水によるたわみが少なく、また、制作中にたわんでも乾くと綺麗に戻ります。水をたくさん使用する表現にも耐えるので、教室などでじっくり描く方にお勧めです。「水張りは面倒で… 」という方の強い味方です。まれに、購入した紙が全て糊で固められているのに驚き、全て剥がしてしまった、というお話をお聞きすることがありますが、それではブロックの特徴を台無しにしてしまいますので、くれぐれも全て剥がさず、1枚ずつ仕上げてから剥がす様にしてください。
手軽さなら「ブック」
「スケッチブック」という名称でお馴染みの、一辺がコイル状のリングや本などの様に糸で綴じられているものです。次へ次へとパラパラとめくれるこの形状は、その名の通り、スケッチなどに向いています。コイルや糸で綴じられているため、描き溜めたものをまとめて保管したり、人に見せる時に便利です。紙の四辺が固定されていないため、水を使用した後の紙のたわみの影響を受けるため、水を多く使用した制作には不向きです。軽くさらっと描きたい表現向きです。
並行した制作に便利な「パッド」
スケッチブックの様に一辺のみが「ノリ」で綴じられているパッドタイプは、並行して複数枚を描きたい人にお勧めです。制作中に絵の具が乾く待ち時間ってありますよね?そんな時にパッドタイプなら複数の作品を並行して描き進められます。特にいくつかの表現を実験的に試したいときなどにとてもお勧めです。ただし、水の使用によるたわみは避けられません。たわみを少なくしたい人は平張り(簡易的な水張り)をすると良いでしょう。形状的に「ブロック」と似ているため、購入の際は注意が必要です。
タイプ別、初心者にオススメする、紙はコレ!
一般的に画材店で水彩紙と表記されて販売されている紙は、一定のレベルに達していると思います。それでも初心者の方にはやや使いにくいと感じるものもあります。教室でも一般的にもよく使われていて定評のあるものを挙げておきますので、まずはそこからスタートすると良いでしょう。コットン+木材パルプ、コットン100%からそれぞれご紹介します。形状は「ブロックタイプ」をお勧めします。
【ワトソン:コットン+木材パルプ】
紙色にホワイトとやや黄身を帯びたナチュラルの2種類があります。ホワイトも柔らかい白でおすすめですが、初心者の方はナチュラルがおすすめです。やや黄色味を帯びた紙色が、絵の具の色調を柔らかくまとめてくれます。紙の表面がそれほど丈夫ではないので、重ね塗りや洗い出しといった技法がやややりにくいです。
【ウォーターフォード:コットン100%】
コットン100%の中では比較的お手頃の価格で、愛用者も多い割に、デメリットを聞いたことがありません。価格と使用感がバランスの取れた紙だということでしょう。やはりホワイトとナチュラルがあり、また、紙のキメには「荒目」「中目」「細目」の3種類があります。初めての方は真ん中の「中目」を選ぶと良いでしょう。色に関してはワトソンと同様です。
まとめ
初心者の方が思われている以上に、紙には個性があり、同じ様な表現を行っても結果は異なります。特に重ね塗りや、滲み表現などはちょっと苦労するポイントかな?と思います。だた、どれが良くてどれがダメ、という簡単な話ではなく、使い心地や肌理のでき方、絵の具の発色など好みの部分もありますので、まずは定評のある、比較的スタンダードなものから始め、徐々にいろんなものを試されると良いと思います。その様に、画材を試し、失敗も含め、さまざまな経験を積むことで紙の知識がより深まると思います。ぜひ、楽しみながら紙を使ってみてください。
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