横浜美術学院監修 美術用語辞典

横浜美術学院が独自に編集した美術用語辞典です。美術に関わっていく人に最低限知っておいてもらいたい用語を中心に編集しました。何かの機会に耳にした言葉の意味が分からないときに、活用して下さい。なお、人名に関しては全て削除しました。知らない画家の名前などに出くわした時は、必ず自分で画集を探して確認して下さい。

あ〜お

アーツ・アンド・クラフツ

イギリスで19世紀後半におきた運動。W.モリスが中心人物。
大量生産で画一化したインテリア、金工品、陶磁器などを手作りで生産し、日常の美的環境を改善しようとした。近代デザインの発祥のきっかけになった。

アール・デコ

1925年パリ国際装飾博覧会で好評だったスタイル。前世紀のアール・ヌーボーの系譜を引き継いでいるが、ジグザグ模様や直線的幾何学的パターンが特徴。

アール・ヌーボー

19世紀末に流行したスタイル。植物の形からヒントを得た、曲線や当時としては大胆な色彩が特徴。それまでの様式を超える斬新なものとして世界的に流行した。ラファエル前派アート・アンド・クラフツを前提としている。

アヴァンギャルド

本来は軍隊用語だったが、転じて芸術の前衛的傾向に対して使われるようになった。今では、主にシュールレアリズムや抽象芸術などのような、伝統的な芸術の価値観と反する傾向を指す。

アクリル絵の具

アクリル樹脂であるポリマーを媒材にした絵の具。アクリル樹脂は、透明で強度が強いことから戦後アメリカで大量に生産され、例えば航空機の風防などさまざまな用途に使われた。アクリル絵の具は、水性だがいったん乾燥すると耐水性に優れているため、塗り重ねができる。アクリルグワッシュは不透明な水彩のアクリル。下層の絵の具を上層の絵の具が塗りつぶす力が強い。

アクアチント

銅版画の技法のひとつ。版に細かい松脂の粉を撒いて熱で付着させ、酸で銅版を腐食させると松脂の粉のついていた部分が、無数の点として凸状に残る。これにインクを詰めて刷ると細かい白い点が無数にある面が作れる。これに筆につけた腐食液で形を描けば、微妙な濃淡のある版画ができる。

アクション・ペインティング

戦後アメリカ絵画の代表的なスタイルのひとつ。代表的な画家はドリッピング※で作品を制作したジャクソン・ポロック。行為する場としてのキャンバスと、制作する肉体の運動、その進行形の緊張感が要点の形式。

アッサンブラージュ

パピエ・コレコラージュから発展した技法。寄せ集めとか組み合わせの意味のフランス語で、芸術の素材として作られているものではないものを寄せ集めて作品を作るということがポイントである。戦後の世界の美術のひとつの共通項として浮上した、伝統的な美的価値観の破壊の流れのひとつである。

アナモルフォーズ

故意に歪めた画像もしくは画法。対象を引き伸ばしたり歪めたりして、にわかには何が描かれているかわからないが、円筒形の鏡面などに写すと初めて、隠された画像がわかるように描かれている。

アニメ

アニメーション(animation)の略。ただし英語圏でanimeという場合は、日本製のアニメーションを意味し、他のアニメーションをanimeとは呼ばない。アジアではドラえもんが受けるが、欧米では主人公ののび太が情けないという理由で全く受けない。

アルテ・ポーヴェラ

1960年代後半にイタリアで起こった芸術運動で「貧しい芸術」という意味。代表的な作家は、マリオ・メルツ、カール・アンドレ、リチャード・セラなど。作品素材が、芸術作品を形作るものとしてはそれまで認識されていなかった、日常的な工業製品などが多かったため付けられたネーミング。作品単体の価値よりも、作品の置き方や作品を置く場などを重視したことから、日本の「もの派」※との類似性も見ることができる。

アンデパンダン

フランス語。英語のインディペンデントにあたり、自由なとか独立したとか無所属とかいう意味で、無審査の展覧会を意味する。1870年代から80年代に開かれた印象派展などがそのルーツ。日本では1949年の開かれた「読売アンデパンダン展」が、出品作品が芸術かゴミかという論争を巻き起こし、当時の人々の間にスキャンダラスな衝撃を与えたことで有名。

アンフォルメル

非定形という意味のフランス語。非公式なという意味もある。戦後ヨーロッパの前衛芸術運動で、アメリカのアクション・ペインティングと同時期。代表的な作家は、フォートリエ、デュビュッフェ、ヴォルスなど。彼らはプロの画家としての経歴を持たず、既成の絵画の概念や素材や価値観とかかわりをもたず、美術以外の数学や物理哲学などで理論武装した激烈な主張を持っていた。戦後の前衛芸術の普遍性の確立に大きな功績を果たした。

イメージ

ごく普通に使われる言葉。印象という意味にも使われたりするが、本来の意味としては、実物を具体的な絵画や彫刻の形に置き換えたものや、それについて心の中に浮かんだ像のことだが、ただの形や色彩を指す場合もある。使う者がどういう意味でこの言葉を使っているのかということを、理解しないと混乱する。

イコン

キリスト教圏の中でもギリシャ正教やロシア正教に多く見られる聖人画像。カトリックの偶像崇拝禁止の教えから、類型化された形の聖像が多く、抽象と具象という表現の文脈の中の振り子の端と端の再現の無い話の中で、象徴的に扱われる場合がある。

イリュージョン

錯覚や幻想、幻視という意味で、最近は手品のことをこう呼ぶこともある。美術の世界では、平面上に三次元的奥行きを感じるということが、本来、物理的にはあり得ないことなので、それは一種の錯覚であることから、そうした絵画的効果のことを指してイリュージョンという。但し、現実空間の再現を放棄した抽象絵画に関しては、画面に、人の手が入った痕跡が示すすべての効果そのものを指す場合が多い。

印象派

19世紀半ばにフランスで起こった芸術運動。対象の自然に見える再現を重視した伝統的な絵画の価値観を破壊し、対象を捉える輪郭線も固有色も否定し、筆触を意識的に残し、純粋に絵画独自の問題に焦点を当てて創作した。やがて、人の精神性を表現することが中心命題となった20世紀の絵画の先駆的役割を果たした。

インスタレーション

元々は据付とか架設という意味の言葉。伝統的な彫刻や絵画という分類に組み込めないスタイルの作品を指し、そうした作品が作品それ自体で自己完結するのに対し、インスタレーションは空間全体を対象視している為、作品とそれが置かれた場との関係性がより強く意識される。比較的短時間の展示の後解体されることが多く、そこでは表現の「一回性」ということも問題となる。

ヴァーチャル・リアリティー

「仮想現実空間」と訳される。物理的な実体を持たないで、現実空間のような感覚を持たせることを指す。厳密には映画やテレビもこの範疇に入るが、主としてCGなどを指す場合が多い。テクノロージーの進化によって、CGSFXのヴァーチャルな空間がリアリティーを急速に増しているため、例えば暴力に対する嫌悪感の麻痺など、犯罪を助長するという分析もされている。

ヴェネチア・ビエンナーレ

ビエンナーレというのは、2年に1回開催される展覧会のことで、このビエンナーレは世界でもっとも古い歴史を持つ。会場内には30ヶ国以上のパピリオンが作られており、各国の参加作家の選出は、国ごとのコミッショナーが行っている。企画の内容によっては、過去の作家の大規模な回顧展が開かれたりもするが、原則的にはその時期に最も外国に紹介したいと考えられた作家が選ばれる。

絵コンテ

コンティニュイティ(連続)の略語。映画などのシナリオを基礎として場面の区分や構図※などを絵に描いたもの。イメージを明快に撮影関係者などに伝えることが目的なので、絵画としての上手さや良さよりも、その目的にかなった表現が求められる。映像科の授業で行われることが多い。

エスキース

フランス語で、スケッチや下絵のこと。絵を描く前に、あらかじめ自分の描こうとしている絵のイメージを、本画とは異なる素材も用いながら描きだしたもの。本画よりもやや小さな画面で行うことが多く、漠然としたアイデアから一歩進めた作業と考えてよい。

SFX(エスエフエックス)

スペシャルエフェクツ(特殊効果)のなまった映画の用語。従来の映画での特殊効果というのは、模型やコマ撮りの映像を合成するなどの方法によるものが多かったが、コンピューターの進化によって、より精密な効果が得られるようになったため、従来のアナログな特殊効果とは別な概念として用いられている。

エッチング

版画の技法のひとつで、凹版画。一般的には銅板を用い、版に耐酸性の防腐剤を縫って乾かしてから、ニードル(尖った錐のようなもの)で描画し線状に防腐剤をはがし、腐食液につけてはがれた部分を腐食させ溝を作る。その版から防腐剤を取り除き溝にインクを詰めてプレスして刷る。

エングレービング

銅版画の一種で、金属板に直接傷をつける技法だが、ドライポイントと違い、ビュランという道具を用いて断面が三角形の溝を掘るため、金属滓が残らず比較的大量にすることができる。

オールオーバー

「全面を覆う」という意味の言葉。転じて、絵画空間の中に一定の中心を持たせないで、全体性や単一性、均質性を保ちながら、絵画からイリュージョンを廃して、平面性を重視する構造の作品を指すようになった。

オブジェ

彫刻的な構築性を重視せず、実在の多様な表情を生かした立体をこう呼ぶことがあるが、元々は、シュールレアリズムが、無意識に対応するものとして作品化した物体や作品そのものを指すフランス語である。ダダイズムが、伝統的な「美」の概念を壊す一連の試みの中で、意図的にガラクタを寄せ集めて作品とした動きの継承でもある。

黄金比率

視覚上の調和を求めて古代ギリシャで考えられた比例。黄金分割ともいう。基本的には8:13の比率だが、これはあくまで彼らが理想の具体的な視覚化のために考え出した比率でギリシャ彫刻の規範になっている。レオナルド・ダ・ビンチの描いた「ヴィトルヴィウス的人間」の図は、これによっている。