横浜美術学院監修 美術用語辞典

横浜美術学院が独自に編集した美術用語辞典です。美術に関わっていく人に最低限知っておいてもらいたい用語を中心に編集しました。何かの機会に耳にした言葉の意味が分からないときに、活用して下さい。なお、人名に関しては全て削除しました。知らない画家の名前などに出くわした時は、必ず自分で画集を探して確認して下さい。

ま〜も

マーブリング

トルコでは広く装飾品の模様として用いられ、エブルと呼ばれている。もともとは中国で始まったものがトルコに伝わったと言われているが、確かな証拠はない。水面に油分を含んだ液体を被膜状に流し、それを平面に写し取る技法。流れるような形が大理石の模様を連想させることから名付けられたものか。日本では墨流しといい、古くは古今集などの紙にも用いられている。

マチエール

絵画に関しては、絵の具その他の描画材料のもたらす材質的効果や絵肌を指す。最近はどちらかと言えば、多少ざらざらした粗めの絵肌やその状態をマチエールという言葉で示す場合が多いようだが、油絵の具が手作りだった頃は、均質な絵の具を作ることができるのはメチエ(名人)だけだった訳で、そこから出てきた言葉ということを考えると語義的には魅力的なマチエールというのは、陶器の表面のように滑らかだということかもしれない。

マニエリズム

マンネリズムの語源とも言われ、あまり評判の良くない言葉だが、ルネッサンスからバロック迄の表現様式を指し、高度に発達した技巧と洗練された表現が特徴で、複雑な構図やデフォルメされた形態などが感覚的なものへの傾斜を感じさせる。一方で、反復と洗練はやがて独創性や新鮮さを失うということもあり、その点だけが強調されてマンネリという言葉が生まれてしまった。

ミクスト・メディア

品素材として、様々な媒材や手段を使っているという意味。1970年代から美術の世界で多用されるようになった。元々は、シュールレアリズムダダイズムが、反芸術行為として意図的に作品に持ち込んだ異素材を意味するのだが、今では単に、様々な材料を併用して作っているという意味で使われることも多い。

水粘土

風化作用を受けた非常に小さい鉱物粒子で、水を含むと粘性を持つ土であれば粘土でいいのだが、わざわざ水粘土と呼ぶのは、美術教材として水の代わりに油を混ぜた油土があるからである。従って、水粘土という言葉があるのは主に美術系の教育機関だけである。工芸の作品で雄型を制作する時や彫刻で塑像を制作するときに用い、乾燥して硬くなったものは、適量の水をかけて密封しておけば再利用できる。

水張り

これも美術予備校や美術教育の場でしかほとんど使われない言葉。木製パネルに紙を貼ってその上で作業するときに、紙が収縮してピンと張った状態にしておくために、あらかじめ水で湿らせた紙をパネルにテープで固定し、乾燥による紙の収縮の作用を利用して、張らせるという方法。

ミニマル・アート

ミニマルとは「最小の」という意味。美術の世界では、アクション・ペインティングの反動として1960年代のアメリカで生まれた。画面から可能な限り手技の痕跡を取り去り、均質で単純な形態のものを反復する。徹底した画面からの空間の排除は、絵画から伝統的価値はおろか造形性という問題まで排除して、物質の次元まで追いやろうとする試みだった。ミニマルの考え方は、音楽にも建築にも様々なところで展開され、その無機的な様相がある種現代の気分と一致したところがあった。

未来派

二十世紀初頭にイタリアで始まった芸術運動で、様々なジャンルの芸術表現に大きな影響を与えた。スローガンは、全てのアカデミズムの死と、スピードや騒音などのダイナミックな美の礼賛であった。未来派は、純粋に芸術上の運動というよりは、様々な学問領域までも巻き込んだ、文化革命の様相を呈しており、非常に過激でやがて来る科学技術の発達と大戦争という、人間社会の未曾有の体験を予告するものであった。

明度

色の三要素のひとつで、明るさを示す度合いのこと。一般的には、例えば明るい色の服などというとき、鮮やかさまで含んでしまうことが多いが、色の鮮やかさと明るさは区別して考えなくてはならない。白は最も明度が高く、黒は最も明度が低いが、どちらも鮮やかさはまったく無い。

メゾチント

金属凹版の一種。ロッカーという、先端に櫛のような無数の歯のついた平たい道具で、金属板の表面に細かいマクレを作る。このまま刷れば全体が黒く刷り上がるがこのマクレを削り、磨きだしていく。磨く度合いを加減することで様々な諧調ができ、それを利用して像を描きだす。

メディウム

メディアという単語の単数系。ものとものとをつなぐ役割をするものの集合をメディアと言い、それが一般に情報媒体という意味で使われているが、単数系では美術用語として媒材と訳されている。絵の具(顔料)を固着させたり、顔料同士を結びつける溶剤のこと。

面相筆

眉毛や鼻の輪郭など、人の顔の細かい部分の線描に用いる日本画の筆。非常に穂先が細い筆で、本来は特定の製品を指す固有名詞だが、穂先の細い筆一般を指す普通名詞として使われる傾向がある。

木炭

正式には画用木炭。小枝をそのまま焼いたものと、太い木を割って焼いたものとあり、硬さや色合いなどによって使い分けられる。材料になる木は、柔らかさの順にヤナギ・クワ・ウゴギ・トチ・クリ・ハン・カバ・ミズキなどで、天然素材であるため、同じ木でできていても微妙に色合いや硬さに違いがある。主に木炭紙という専用の紙を使用して描き、木炭自体には固着性がないため、描きあがったものは、フィキサチーフという定着液をスプレーして画面に定着する。

木炭紙

木炭を描画材にしてデッサンするときに使う紙。

模刻

彫刻などの立体作品で、オリジナルの作品やモチーフをできるだけ忠実に再現すること。絵画においては、似たような意味の模写という言葉を過去の作品の写しという意味でしか用いず、モチーフの精緻な再現描写を模写と呼ぶことはないが、立体作品ではモチーフの忠実な再現まで模刻と言い表す場合がある。

摸写

何らかの動機で、過去の絵画作品を写す行為。多くの画家が、勉強時代に過去の画家の作品を写すことで、自らの糧としてきたことは知られている。大きく分けて、現状摸写と復元摸写とに分けることができ、前者は文字通り眼前の作品をそっくり写し取ることで、後者は、経年変化した作品が制作当時はどうであったかを調査研究し、再現してみせるものである。摸写といっても、ひとつひとつの筆致まで正確に写し取ろうとするものから、作品の大まかなイメージだけを写すものまで、さまざまな形がある。摸写をするものの目的がどこにあるかで、違ってくるものだと言えるだろう。

モチーフ

音楽では形式を構成する最小単位を意味し、ふたつ以上の音が集まり楽節の基本となるものを指すが、美術でも本来は、表現の動機となった中心思想の意味である。しかし、今では一般的には風景とか静物とか、あるいは静物を構成しているものそのものを指す言葉として用いられている。

モノタイプ

複数刷れることが版画の特徴だが、方法によっては一点かせいぜい2-3点しか刷れないものもあり、そういう作品を指す。あえてそういうタイプの作品にする理由と方法は様々だが、例えば、金属板に直描きして、そこに紙を乗せ転写するという方法は、一回性ということに作者がこだわっているときに行われる。

もの派

本来は映画用語として、撮影した状態のフィルムをアレンジして、前後の関係や上下の関係などの予定調和を白紙に還元し、再構成するシュールレアリズム的手法を指すが、解体・再構成というモンタージュの構造が、創作行為の中で非常に大きな重要性と可能性を持っていることは確かである。

モンタージュ

表面の荒れた物質に紙を乗せて、その上を鉛筆など固い描画材で擦って意外なイメージや模様を得る方法。エルンストがこの技法を多用している。同様な技法は、例えば石碑に刻まれた文字を保存解読するために用いられたりして、美術以外の分野では古くから使われていた。