横浜美術学院監修 美術用語辞典

横浜美術学院が独自に編集した美術用語辞典です。美術に関わっていく人に最低限知っておいてもらいたい用語を中心に編集しました。何かの機会に耳にした言葉の意味が分からないときに、活用して下さい。なお、人名に関しては全て削除しました。知らない画家の名前などに出くわした時は、必ず自分で画集を探して確認して下さい。

た〜と

タイポグラフィ

タイポとは、文字や活字のことで、タイポグラフィという言葉は、本来は植字や文字組みなどの活版技術を意味していた。しかし、様々な印刷技術の発達とともに、特に表音文字であるアルファベットを使用する文化圏で文字自体を形象としてのみ扱い、デザイン的素材として用いるようになった。現在では、レイアウト文字や手書き文字も含めた総称となっている。

ダダイズム

1916年にスイスのチューリッヒの文学キャバレー「キャバレー・ボルテール」で始まった反芸術運動。第一次大戦の経験から、ここで芸術家や詩人達は、詩の朗読会や音楽会、パフォーマンスなどを繰り広げ、そこでは、戦争の愚かしさやむなしさから生まれた既成概念を否定しようということが叫ばれた。既成の芸術の様々な意味や価値が解体され、芸術を特別なものと位置づけている価値観こそが、破壊されなければならないとされた。

ダンマル樹脂

軟性の樹脂で、テレピンなどの溶剤に溶かして使用し、絵画の保護膜や加筆用ワニス、油彩、テンペラ等のメディウムの素材として使用することができる。固形のダンマル樹脂をガーゼでくるみ、容器の中に宙づりにしてテレピン2に対してダンマル樹脂1の割合で浸す。そうして得た溶液をテレピンの溶剤に少量混ぜて使用する。

チャコペン

チャコール・ペンシルの略。チャコール・ペンシルは、木炭粉と粘土がこねられたものが芯となった鉛筆状の描画材料で、鉛筆に比べて発色のいい黒が得られます。ただ、水溶性があるものの通常の消し具で容易に消すことは難しく、絵の具に近い発色なので、使用する際には慎重さが必要です。

ディテール

細部。文字通り細かいところと解釈されやすいが、作品の中では全体感をより強めるための細部と理解すべきだろう。基本的に絵を描くことが好きな人は、作品制作の後半になると大抵細部に手を出す。それ自体は間違ってはいないが、とりあえず目に付く細部に片端から手を付けるようになると、作品は必ず単調になる。実際にはそれほど細部を描きまくっているわけではないのに、とても精緻に描き込まれたように見えるのは、全体の質や存在感を支える部分としての細部が巧妙に選択されて描かれているからである。「細部には神が宿る」と言った画家がいたが、まさにこれはそのことを示している。

デカルコマニー

彩色した絵柄を紙や陶器などに転写する技法。シュールレアリズムでは、人の手で直に描いたものと違い、偶然の染みや絵の具の表情が使えるため、偶然の効果をもたらすオートマチックな手法として利用された。

テクスチャー

質感のこと。マチエールと同じ意味で使われるが、マチエールが主に描画材自体の物質的な面での肌合いとか光具合のことを意味するのに対して、テクスチャーというのは、絵画層の構造的な面での触覚性を指す。様々な顔料や溶剤が開発されたことで、その使用法も複雑になり、また、絵画に求める表現の幅の広がりもあって、テクスチャーはますます複雑になってきていると言えるだろう。

デスケール

一般的には木炭紙サイズの比率の窓が、一回り大きいプラスチック版にくり貫かれており静物石膏像などのモチーフをその窓越しに覗いて、大体の構図や輪郭的な形のバランスを確認するために用いる用具。モチーフの輪郭的な形だけを頼りにするので、無意識に平面図形として形を見る癖がつきやすい。

デッサン

ドローイングの項参照。

デフォルメ

変形の意味。作家の感情の表現や造形的な意図の強調などのために、自然の再現を捨て、何らかの不自然さや不快さを感じさせるとしても、意図的に施す変形のこと。

テレピン油

松脂を蒸留して得られる揮発性の油。油絵の具の溶剤として使われるが、光沢がなく画面への絵の具の固着性もないため、単独で用いることは少ない。通常は、リンシードオイルポピーオイルなどの乾性油と混合して使用する。

テンペラ

本来テンペラというのは、水と油性の成分が乳化した状態のものを媒材として描く技法のことで、その際に乳化剤として卵を使うのが卵テンペラ、カゼインを使うのがカゼインテンペラである。卵テンペラが一般的だが、卵テンペラは、顔料を鶏卵と水とダンマル溶液とで画面に定着する。油彩画のような黄変を起こし難いという特徴があるため、卵テンペラで描かれた絵画は、時代が経過しても絵の具の発色のいい状態であることが多い。

透明水彩

顔料とアラビアゴムと少量の砂糖が練られてできている絵の具。色の透明性が高いので、紙の白さを生かして明るさを調整して描く。基本的には絵の具を厚く画面において描く描画材ではないので、少量の絵の具で発色のいい画面が得られる。絵の具が乾いた後でも、水をつければ溶け出してしまうので、その性質を利用して描画することが望ましい。

ドライポイント

金属凹版の一種。先端が尖ったきりやナイフのような器具で金属に直に版を作る。その際に生じる削りかすやマクレなどは意図的に取り去らないでおくと、刷ったときに独特のにじみがでて、この版独特のニュアンスが線に生じる。ただし、プレスする度にそうしたマクレなどは圧迫されてなくなっていくので、作品はあまり多くは刷れない。

ドリッピング

1947年から、ジャクソン・ポロックは、絵筆の伝統的な使い方から離れて、床に水平の置いた画面の上に、上から絵の具を縦横にしたたらせた技法で作品を制作した。筆を用いては描かないものの、ポロックは、この技法で絵を描いている時は自分は完全に絵の具をコントロールしていると語っていた。

ドローイング

素描、デッサンのこと。かつては、ドローイングは完成作のための習作と位置づけられていて、絵の具で描く絵に対してやや軽視されていた。しかし、絵の具で丹念に描いたものが作品である、ということに代表される伝統的な絵画の価値観が、あらゆるところで否定された近年になって、描画材がなんであれ制作時間の長短がどうであれ、作品の形式で区別されることは無くなり、むしろ作家のコンセプトがより明快に表されているものとして、改めて注目されるようになった。

トロンプルイユ

だまし絵と言われるスタイルの作品で、精巧な描写によって実物と見間違えるほど迫真的に表現する。宮殿内部の天井に描かれた宗教画などに多いが、さらに二十世紀に入るとダリやマグリットなどのシュールレアリストが応用し、系譜としてはスーパーリアリズムの作品にも繋がると考えても良いだろう。ただし、技巧を発揮することだけを目的としてこういう形式の作品を制作する画家もいて、そういう場合は芸術性の低い単なる目をだますだけの絵、という蔑称として用いられることもある。